

- ヤマハ・スクーターのデザインを手掛けるエルム・デザイン所属のデザイナー。昨年までイタリアに駐在し、欧州モデルを数多く手掛ける。帰国後、ジバンシーとのコラボレーションによる『ウルトラマリン ブルースカイ×マグザム』のカラーリングデザインも手掛けている。
今回のマイナーチェンジは、生産も担当する台湾が中心となってプロジェクトを進めました。とはいっても、シグナスXは欧州では毎年1万台以上を売り上げる人気車種であり、また日本においても125ccクラスの中心モデルなので、それぞれの市場担当者から多くのリクエストがあったはず。そのなかで125ccらしいきびきびとしたスタイルとプレミアムテイストがうまく表現されていると思います。
実は、このシグナスXのような世界戦略車のデザインは非常に難しいんです。なぜなら、各国の市場において、その存在価値が異なりますから。たとえば台湾では、数年前に排気量規制の上限が解禁されましたが、いまだに125ccスクーターは上級機種であるという位置づけです。それに対して欧州は、日本の50ccと同様に、普通自動車免許を取得していれば125ccの二輪車まで運転できる国がほとんどですから、125ccスクーターはエントリーモデルと言えます。また日本の場合は、通勤用途が多く耐久性や燃費への意識も高いので「50ccでは物足りない、でも250ccでは大きすぎる、でもパフォーマンスは欲しい」と言うコアなユーザーが多い。それらの要求をすべて満たした商品でなければならないのです。
「欧州ではシグナスXはエントリーモデル」と表現しましたが、実際、商品に対する目は非常に厳しいですね。というのも欧州の都市部は、日本同様、慢性的な渋滞が問題になっている上にガソリン代が日本よりも高いんです。そこで省スペースで低燃費なスクーターが、交通手段として広く認知されているわけです。しかもスクーターをチョイスするユーザーは所得水準が高く、日常的にハイクオリティな物に触れ、それまでの移動手段も高級四輪車を利用していた人が多く居ます。つまり、ユーザーの目が肥えているんですね。ですからメーターの見え方、シートの質感や座り心地、それにボディカラーの仕上げといったディテールへのこだわりは四輪車と同レベルと言えます。
私自身、欧州の販売店さんから「モノを見る目を持ったお客様が、日常の交通手段として新たにスクーターを購入されるときには『シグナスXが最適です』と勧めるんですよ」と聞いたことがあります。パワフルでクリーンな4ストロークエンジンはもちろんのこと、ツインリアショックの採用で現地特有の石畳など荒れた路面でも走行が安定していること、また、大柄な欧州のユーザーがタンデムした場合でも乗り心地が良いことなどが高い評価を得ている理由です。
もちろん、デザインも重要な要素です。欧州では“艶感”がとても大切なんですね。艶感とは面の構成だったり、張りだったり、キャラクターラインのテンションだったり。具体的に言うと、大きな曲面が徐々に収束していくような、自然に移り変わるような面構成のことです。シグナスXは、前モデルでもそれを上手く表現していましたが、今回デザインリニューアルしたことで、さらにスポーティさが加わっていますね。
このように、エントリーモデルとはいえ、マジェスティやTMAXに通じる上質さとスポーティさを有しているので、シグナスXを購入されたお客様は、その後ステップアップするケースが非常に多いのだそうです(笑)。



